idea notes

備忘録のようなもの。たまに気が向いたときに書きます。

読書:2月上旬に読んだ本

今月上旬に読んだ本2冊。どちらも、米国流の株主資本主義のもとでの経営改革の難しさについて考えさせられる内容だった。

1冊目は、2011年に最高益を達成したにも関わらず、その後は一転して業績が低迷する日本マクドナルドの経営(特に原田CEO時代)を公開情報に基づいて分析したもの。マクドナルドについて論じる場合、「食の安全」や「健康」が重点的に取り上げられることが多いと思うが、この本ではそのあたりの問題についてはあえてほとんど触れず、あくまでも日本マクドナルドのビジネスモデルの在り方に焦点を当てるアプローチが採られている。

マクドナルド 失敗の本質: 賞味期限切れのビジネスモデル

マクドナルド 失敗の本質: 賞味期限切れのビジネスモデル

 

原田CEOのもとで、日本マクドナルドはかつての日本的にアレンジされた経営手法を捨て、米国本社流のビジネスモデルに転換する。戦略転換後の最初の数年間に行われた、ブランドイメージ回復、店舗効率の改善、商品の品質向上を目指した施策は同社の業績回復につながった。だが米国本社の圧力で利益をより一層重視する経営に向かわざるを得なかったことや、他の外食・コンビニチェーンとの競争などの要因で業績は低迷し始める。

著者によれば、原田CEO時代の経営危機の要因は短期志向のマーケティング施策、「サービスのトライアングル」(企業・従業員・顧客の良好でビジネスの成長につながる関係)の崩壊、画期的なイノベーションの不足だった。これは創業者・藤田CEO時代の経営危機を招いた要因でもあったという。またこの本では、そもそも米国流のFC経営というビジネスモデル自体が行き詰まってきていることも指摘されている。

ちなみにマクドナルド(米国および世界全体)が直面する問題については、こんな記事が最近出ていた。


米マクドナルドが語りたがらない10の事実 - WSJ

今月前半に読んだもう1冊の本は、マリッサ・メイヤーが米YahooのCEOに就任してからの約2年間、同社の経営立て直しにどう取り組んできたかを描いたノンフィクション。翻訳はまだ出ていない。

Marissa Mayer and the Fight to Save Yahoo!

Marissa Mayer and the Fight to Save Yahoo!

 

プロダクト戦略でのつまづきや大型買収の失敗の結果、長期間にわたって業績が低迷していたYahoo。そこに白羽の矢が立ったのが、Google幹部だったメイヤーだった。プロダクトマネジメントの経験豊富なメイヤーは、多すぎるプロダクトの整理とクオリティの改善に取り組み、それまで手薄だったモバイル部門にてこ入れした。一方、彼女は上級幹部の登用や新しい人事評価制度の導入に失敗し、広告事業やメディア事業などそれまで未経験だった分野での舵取りに苦労する。メイヤーの就任後、プロダクトは良くなったとはいえ、今のところそれが目立った業績回復にはつながっていない。

数百人の関係者にインタビューし、社内文書も入手して書かれたというだけあって、彼女の行ってきた一連の判断に関するこの本の記述は生々しく詳しい。

個人的に特に興味深かったのは、メイヤーがさまざまな改革を短期間に断行できた大きな理由の1つがアリババの存在だったという指摘だ。彼女のCEO就任当時、Yahooは急成長を続けていたアリババの株を22.5%保有しており、そのことがYahooに対する投資家の期待につながっていた。アリババは2014年中にはIPOを行う予定で、Yahooはその際に株式を売却することになっていた。

つまりアリババのIPOまでの約2年間、メイヤーは投資家からのプレッシャーにさらされず、自分の考えに基づいてYahooの立て直しを行うことのできる立場にあったわけだ(実際、彼女は投資家の反対を押し切って前任者スコット・トンプソンが進めていた大規模レイオフ計画を中止している)。著者が指摘しているように、CEOとしてはかなり恵まれたスタートである。結果的には、業績回復を達成することはできなかったけれども。

アリババが2014年秋にIPOを行った際、Yahooは保有していた同社株をすべて売却することはしなかった。もともとの計画ではすべて売却することになっていたが、「時間稼ぎ」のためにまだ保有が必要、という判断である。だがYahooへの投資家たちの批判は高まり、今年1月に入ってからは、同社は残りのアリババ株を新設する投資会社に分離するという発表を行っている。


米ヤフーがアリババ株を別会社に分離へ、広告事業の強化急務に | Reuters


米ヤフー、スモールビジネス部門を分離へ--アリババ株スピンオフ計画の一部として - CNET Japan

メイヤーにとっては、これからが経営の正念場といったところだろうか。

 

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