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読書:イスラム国 テロリストが国家をつくる時

昨日は最近刊行されたこの本を読んだ。イスラム過激派組織としての「イスラム国」のユニークさと、国際社会が彼らに対応することの難しさを論じている。著者は対テロファイナンス(こんな研究分野があるんだ)の専門家だという。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

  • 作者: ロレッタナポリオーニ,池上彰,Loretta Napoleoni,村井章子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/01/07
  • メディア: 単行本
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この本で論じられているポイントをおおざっぱにまとめると、以下のようになるだろうか。

  • 「イスラム国」は同じイスラム過激派でもアルカイダのような組織とは大きく異なる。経済的にも早い時期に「自立」していて、大国の経済支援を受けずに行動できるようになっている。つまり、大国のための代理戦争として戦闘を行っているわけではない。
  • シリアという国家が崩壊しつつある地域に目をつけて擬装国家を打ち立てた。しかも、みずからをイスラム教の教義にもとづくカリフ制国家であると主張する形で。
  • テロを行って支配地域を拡大しつつ、地域住民の支持を取り付けることを目指した施策を積極的に行っている。もちろん、地域住民が自分たちと対立しない信条を持っている限りにおいては、という但し書きつきだが。
  • プロパガンダに長けていて、SNSを積極的に活用して自分たちの(ムスリム国家としての)正統性を世界に誇示し、リクルーティングを行っている。

「イスラム国」は今のところ当該地域内での勢力を拡大中である。そして今のところ、国際社会はこの勢力への効果的な対応ができていない。著者はこんなふうに述べている。

多極化する世界で民主主義が存在の危機を迎える中、そして中東全域が不安定化する中、第三次世界大戦の脅威を背景に、「イスラム国」が世界に突きつけた切り札は「国家建設」である。カリフ制国家再興の試みが近い将来に成功するかどうかはともかく、いずれ他の武装集団が同じような野望を抱く可能性はなしとしない。欧米と世界がこの問題への対応を誤るなら、世界秩序に悲惨な影響をもたらすことになろう。(164ページ)

 

追記(2015年1月25日)

『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』では「イスラム国」の経済力について言及されていたが、最近では有志連合の空爆や原油価格の急落、増加する戦闘員などの要因で国家の維持が困難になってきているようだ。


「イスラム国」原油収入細り、資金難か 身代金で補う? :日本経済新聞

 

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